FEELING ARCHIVE / ときめく
00:03 / 帰宅後 · 春帰ったあとにも、同じことを思い出していた。
「今日ありがとう」の後ろに、二人しか知らない話がついた。
靴を脱いで、コートを椅子に掛ける前に通知が来た。文章はたった二行。最後に通った道の、変な看板のことが書いてある。玄関の照明が消えるまで、画面を見たまま動けなかった。
玄関の灯りは人感センサーだから、じっと立っていると消える。靴を片方脱いだとき、ポケットの中でスマホが震えた。帰宅の報告だったらすぐに返したほうがいい。そう思って画面を開いたら、最後に二人で見た変な看板の話が続いている。玄関の明かりが、またぱっと点いた。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなた今日はありがとう。あの看板、まだおもしろい笑
相手ちょうどそれ思い出してた。
あなたなんであんなところにあったんだろうね。
相手今度通ったら調べてみよう。
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。その日の笑いが、別々の部屋で一回ずつ増えた。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
その場で面白かったものが、相手の頭にもまだ残っていた。『楽しかった』という感想より、こっちのほうがはっきりしている気がした。二人しか知らない細部というのは、あとから妙に強くなる。あの看板の文字を何度も思い返したわけじゃない。相手もあれを覚えていたことを、自分が覚えていた。
メッセージの温度が同じだったのかはわからない。ただ相手がわざわざその話題を出してくれたことが嬉しかった。いつ返信するべきかを計算して、よい結末を作ろうとすると、通知ひとつが急に仕事になる。笑ったことに笑ったと返して、眠くなったら寝る。それで今日という日は十分長く続いた。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
気の利いた長文より、さっき同じものを見たという記憶がうれしい。無理に盛り上げ直さなくても、余韻を分け合う一言がある。
次にその道を通ったら、看板より先にスマホの画面を思い出しそうだ。
翌朝、玄関に置きっぱなしだった靴が目に入った。今度こそきちんと揃えていると、昨日届いた文字がまた浮かんだ。別の人に『楽しかった』と説明するのは難しい。看板の写真を撮らなかったことだけが少し惜しい。でも撮っていたら、こんなに細かく文字を覚えていなかったのかもしれない。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
帰宅後のお礼は、その日にしか書けない一場面を一つ添える。既読や返信の時間は気にしすぎない。
返事を確かめるための追いメッセージや、次の約束の催促にしない。
気づいたら、コートをまだ着たままだった。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: Marissa Grootes / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す