FEELING ARCHIVE / 切ない
20:55 / 河川敷 · 夏花火が終わった途端、普通の道に戻った。
大きな音が消えると、さっきまで聞こえなかった靴音がする。
最後の花火が上がった。拍手は一瞬で終わり、河川敷の明かりが戻る。出店の看板を片付ける人と、駅へ向かう人の列。手首にはまだ、会場でもらった紙の輪がついていた。
最後の大きな花火が空でほどけたあと、しばらく煙だけが残った。拍手は一斉だったのに、終わるのはばらばら。出店の人が釣り銭を数え始め、河川敷の草を踏む音が急に近くなる。手首の紙の輪は汗で柔らかくなっていた。光のない川を見たら、さっきの赤い花火がまだ少し残っている気がした。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなた終わっちゃったね。
相手あっという間だった。
あなたまた来年もやるのかな。
相手たぶんね。
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。『来年』と言ったあと、二人とも別の話をした。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
『また来年もやるのかな』と言ったのは相手だった。イベントの開催予定を調べようかと思い、スマホを出しかけた。けれど相手が知りたいのは運営情報ではない気がして、そのまましまった。たぶん、と返したあと、二人は出店の焼きそばの話をした。答えのない先の話が一秒だけ混ざり、何も決めずに元の話へ戻った。
来年もここで一緒に見る、という意味だったのかはわからない。今の約束ですらない。花火を見る人たちの中には家族も、友達も、今日初めて会った人もいる。それぞれの『また来年』が違う未来を指している。同じ空を見たことに間違いはない。なら、未来の意味をその場で聞き出さなくても、この夜はちゃんと特別だった。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
来年まで続くかどうかは、誰にもわからない。だからあの場では答えを出さない。ただ帰り道の雑踏で、一緒に見た最後の一発を覚えている。
数日後、鞄の底から紙の輪が出てきた。捨てられず、机の端に置いた。
三日後、鞄の底から紙の輪が出てきた。夏祭りの入場確認につけた、よくある安い紙の輪だ。買ったものでも記念品でもない。端が少しふやけ、汗の跡がついている。捨てようと引っ張ると、意外に強くてちぎれない。そのとき急に、花火が終わった直後の静かな河川敷を思い出した。結局、輪は机の上に置いた。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
夏祭りなどイベントの日は、二人の予定や帰る手段を先に決めておく。帰りに何が一番よかったかを聞くのもいい。
混雑や暑さに無理をさせず、写真を撮るときは相手の希望を確認する。
紙の輪は、三日後にちぎれた。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: Tsuyoshi Kozu / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す