FEELING ARCHIVE / いとおしい
14:30 / 喫茶店 · 秋覚えていてくれたのは、好きなものじゃなくて苦手なもの。
「氷、なしでいいんだよね」だけで、少し言葉に詰まった。
まだ二回目に会っただけ。前回、冷たい飲み物が苦手だと何となく話した。今日は自分でも忘れていたのに、相手が注文の前にこちらを見た。窓際の席には日が差していて、ガラスの中の氷がカランと音を立てた。
喫茶店の窓際には、氷の入ったグラスがいくつも並んでいた。向かいの席に座る相手がメニューをめくる。まだ二度目の約束で、前回は何を注文したのか、こちらはもう思い出せない。店員が来る少し前、相手が自分のグラスを見て、『氷なしでいいんだよね』と言った。メニューより先に顔を上げた。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなた氷なしでいいんだよね。
相手……覚えてたんだ。
あなたこの前、言ってたから。
相手うん。ありがとう。
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。たぶん相手にとっては、ほんの少し気をつけただけ。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
『覚えてたんだ』と返す声が、思っていたより大きくなった。何度も話題にしたわけではない。前回、歯にしみるから苦手だと言っただけだったはず。相手はそのまま普通に自分の注文を決めている。自分にとってちょっと大きい出来事でも、相手にとっては覚えていたことを一つ言っただけ。そこが余計にうれしかった。
小さな気遣いに必ず恋愛感情があるとは限らない。気配り上手な人なら誰にでもそうするかもしれない。『私のことどう思ってるの』と結論を急いだら、その瞬間は別のものになる。覚えてくれてありがとうと言えたことだけで、今日は十分だった。相手の特別さを測る代わりに、氷のないグラスが目の前にある。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
大きなサプライズより、話をちゃんと覚えていたことの方が残る場合がある。相手が何を嫌がるかを覚えるのは、関心の形の一つ。
帰宅してから、氷なしのグラスのことを思い出して、自分でも少し不思議になった。
帰宅して冷蔵庫を開けたとき、製氷皿が目に入った。それまで何百回も見てきたものなのに、氷の話が急に戻ってくる。そこまで細かく覚えてくれる人がいた、という事実より、『覚えてたんだ』と照れてしまった自分の声の方が気になる。次に会ったら、自分も相手の小さな苦手を覚えていたい。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
相手が何気なく言った好みや苦手なことは、その場で記憶に留めておく。気を利かせすぎず、必要なら本人に確認する。
相手の好みは変わる。覚えていることを『ほら、知ってる』とアピールしない。
次に注文するとき、きっとあの一言を思い出す。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: Tanya Barrow / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す