FEELING ARCHIVE / いとおしい
16:12 / 商店街の軒下 · 梅雨雨がやむまでの、予定になかった十五分。
傘は一本もなかった。近くの自販機には温かい缶が二本。
商店街を出ようとした瞬間、雨が強くなった。二人とも折り畳み傘を持っていない。とりあえず軒下へ戻って、濡れた靴を見て笑った。向かいの店はもう閉まっていて、自販機の明かりだけが道路に映っている。
商店街の軒下では、車が通るたび道路の水が縁石に当たる音がした。隣のシャッターには店の営業時間が書かれている。自販機のホットの赤いランプが、雨の湿気で少しぼやけて見えた。傘を買いに走る案もあったけれど、二人とも時間は急いでいなかった。濡れた靴のつま先を見て、同時に笑った。
A SMALL SCENE / 創作会話
あなた天気予報、晴れって書いてたのに。
相手ね。完全に油断した。
あなたあ、あそこの自販機、まだホットある。
相手六月なのに?
創作した会話です。実際の誰かの発言や作品の引用ではありません。雨が弱くなっても、缶が温かいうちは動かなかった。
WHAT WAS DIFFERENT
あのとき、何が残ったんだろう。
話すことがなくなったら困るかと思っていたのに、雨音があると会話が止まっても気にならなかった。自販機で買った缶が熱くて、右手と左手で持ち替える。相手は屋根の向こうの空を何度も見ている。『そろそろやむかな』と聞いたら『もうちょっとかも』と答えた。それ以上は天気について何も言わなかった。
偶然閉じ込められた時間を『運命』だと言い切りたくなるのは、あとから思い出が編集されるからだろう。雨が早くやんでいたら、店の前で普通に別れたはず。雨宿りを長引かせたくて急いで動かないのも、自分の都合かもしれない。だから帰れるタイミングが来たら歩き出す。偶然だったことまで含めて、あの時間が好きだった。
WHY THIS STAYS
忘れられないのは、
こういうところ。
予定どおりなら生まれなかった時間。雨をロマンチックに演出したわけでもない。雨音に隠れて、普段なら言わない昔の話が少しだけ出た。
その商店街の屋根を通りかかると、晴れの日でも自販機の場所を探してしまう。
梅雨が明けてから、その自販機の前を通った。ホットの赤いランプはなくなって、冷たい飲み物ばかりが並んでいた。見慣れた商品の色なのに、置き場所が違うと知らない自販機みたいだった。あのとき手に持った缶の熱さだけが、季節と関係なく戻ってくる。雨宿りをした店が何屋だったかは、今も知らない。
IN YOUR OWN STORY
もし、似た日が来たら。
天気に足止めされたら、相手と帰る手段を相談する。待つなら小さな居場所を探してもいい。
風邪をひきそうだったり急いでいる場合は、タクシーや傘の調達を優先する。
雨はもうやんでいた。缶だけが、まだ少し温かかった。
架空の場面。特定の実話・SNS投稿・映像作品を基にしていない。
イメージ写真: Milada Vigerova / Unsplash。写真は創作された出来事そのものを撮影したものではありません。
気持ちから探し直す